戦後民主主義は敗戦と同時にアメリカよりもたらされたものだといわれたりする。しかし、著者はその側面を認めはするものの、日本には明治時代から民主主義の思想があり、それは継続、発展して現在の民主主義があるのだとする。福沢諭吉、中江兆民、植木枝盛、徳富蘇芳らの明治初期における言論、そして板垣退助らを中心とする自由民権運動の推移などを著者は「明治デモクラシー」と名付ける。そして、その潮流をルソーの社会契約説に忠実であるものと、英国議院内閣制を範とするものの2つに分け、それらが時には反目し、あるいは団結しようとした経緯をたどり、明治憲法成立後、「官民調和」の動きの中で埋もれてしまった理由を探る。さらに、北一輝、美濃部達吉、吉野作造の「大正デモクラシー」におけるそれぞれの説に言及し、「大正デモクラシー」が実は「明治デモクラシー」の再生産でしかなかったことを明らかにしていく。
日本における民主主義の展開を実証的に探り、具体的でわかりやすく説いたものである。そして、文中で著者が指摘するように、これらのデモクラシーが指摘してきた問題点は、現代でも解消されていないことに気がつかされる。「官民調和」によりデモクラシーは葬られ、大正、昭和初期、戦後のデモクラシーは海外からの思想を受け入れることが中心となってしまい、明治の思想家の言葉は過去のものとして振り返られなかった、という。
著者の主張の是非は置くとして、日本における民主思想と政治のせめぎ合いを非常に明晰に提示した好著だといえる。日本史の教科書ではわずか数行で示されている事柄であっても、現実にはそう一筋縄ではいかなかったのだということが本書によってわかるのである。
日本で本当に民主主義が根づいたといえる時期はなかったのではないだろうか。そして、それは現在においてもまだ根づいていないのではないだろうか。私も、民主主義というものについて読みながら何度も考えさせられたのである。
(2005年3月28日読了)