中国の歴史を動かしてきたのは「盗賊」である。といっても、こそ泥のたぐいではない。拠点を持ち、人を集め、ついには大きな都市を占拠し、その中から天下を取り大帝国を築いた者もいる。例えば、漢の高祖劉邦がそうであり、明の太祖朱元障、近くは中華人民共和国の毛沢東に至る「大盗賊」の系譜があるのだ。著者は、天下を取るに至らなかった陳勝、李自成、洪秀全を含めて、この「大盗賊」が中国の歴史上どのような役割を果たしてきたか、天下を取った者と取れなかった者の違いはどこにあったのかなどを検証していく。
本書で特筆すべきは、初刊本では大幅に割愛されたという毛沢東に関する記述である。共産主義の革命家であるという定説を覆し、「大盗賊」の系譜に連なる一人として毛沢東をとらえる時、中華人民共和国という国そのものの本質が見えてくる。歴史を学ぶことによって現代社会を的確にとらえるというのはどういうことなのかを、本書は教えてくれる。
本書の特徴は、読みやすさにある。皮肉たっぷりに叙述される「大盗賊」たちの姿は、ただでさえ面白い中国史をさらに興味深いものにしてくれる。戦略の天才だの人徳の人だのという美化された姿ではなく、そこらにいるごろつきが天下を指呼にとらえていく様子が生き生きと描かれているのである。
歴史の中に生きる人間というものを小説ではなくこうした解説書という形でここまで鮮明に描いたものは、そう多くはなかろうと思う。人間が描かれているということは、小説だけではなく歴史の解説書でも大切なのだと改めて教えられた。
(2005年4月5日読了)