英国ヴィクトリア朝を舞台にした人気漫画の小説化。
新興商人の跡取り息子、ウィリアム・ジョーンズは、久々に家庭教師であった老婦人ケリー・ストウナーの家を訪れる。そこで彼は眼鏡をかけたメイド、エマと出会い、一目で恋に落ちる。しかし、思いを直接伝えられない不器用なウィリアムは、階級差の激しい英国の事情もあり、ケリーの家を訪問してエマと顔を会わすか、街角で偶然出会ったふりをするのが精一杯。インドのマハラジャの息子、ハキムが突然お忍びで遊びに来て、ジョーンズ家に逗留した際、エマをみそめて愛を告白する。それをきっかけにウィリアムはエマへの自分の思いを強く意識するようになる。しかし、ジェントリである我が身と一介のメイドに過ぎないエマとの間に立ちはだかる身分という壁に直面し……。
原作の漫画やアニメではさりげなく絵かかれていた部分を掘り下げ、不自然であったかと思われる部分もていねいな描写で補い、小説ならではの世界を構築している。また、文体なども翻訳調をいくぶん意識して英国19世紀末の雰囲気を浮かび上がらせることに成功している。
ただ単にシナリオを文章化するのではない、小説でなければならないものに仕上げているところに作者の力量を感じる。また、このことによって、原作漫画の表現の深さも再確認できるのである。ノヴェライゼーションとはかくあるべきだろう。
原作漫画のドラマティックな展開をどのように今後描き出してくれるのか、期待は高まる一方である。
(2005年5月15日読了)