1986年、手塚治虫はまだ生きていた時代が舞台。
手塚作品をこよなく愛するファンたちの集まり「手塚治虫愛好会」の星城会長が自殺に見せかけて殺された。愛蔵書のおさめられた書庫の中で。しかし、これは自殺に見せかけた密室殺人であることが判明し、しかも、被害者が秘蔵していた稀少本が盗難されていることも明らかになった。赤本時代の初刊本や幻の作品がそこには含まれている。不思議なことに、決して稀少本とはいえない「リボンの騎士」の古本も棚から抜かれていた。コレクターである会員たちに警察は疑いをかけはじめる。会員である名探偵水乃サトルは、会員たちの疑いをはらすため、密室の謎を解き、真犯人をあぶりだそうとするが……。
私はミステリーにはそれほどくわしくないので、本書のトリックの優劣に関しては判断はできないが、殺人の動機が手塚作品の稀少本であることや、コレクターたちがその気質ゆえに犯罪の動機を持つことになるという点などが、細かく描かれていて面白く感じた。コレクターの人だけに理解できるその無心情が、もし歪んだ方向にいってしまったらどうなるのか。
とにかくひたすら手塚古本の話題が登場する。手塚ファン向けに描かれたというり、コレクター、マニア、おたくに関する独特の空気を小説という体裁をとって一般人に理解されるようにしてみようという著者の思いが強く現れているように感じられた。
(2005年5月18日読了)