新田次郎と藤原ていを両親に持つ数学者と、その数学者に触発されて「博士の愛した数式」という小説を描いた作家が、数学の魅力について語る対談である。
数学者は、数学の美しさ、そして世間的に何の役にもたたないことの魅力を語る。それは一つの美学である。また作家は、改めて知った数学の面白さについて語ると同時に、その面白さの根源を数学者の口から次々と引き出していく。数学の導き出す真理を知ると、神がちゃんと存在し、この完全なる秩序を作り出したのではないかと語る数学者。まさに数式に魅入られているといっていいだろう。そして、読み進むうちに数学の奥深い魅力が読者に伝わってくるという仕掛けで、そのやりとりの楽しさに一気に引き込まれる思いがする。
とはいえ、私は実は数学の完全性にはあまり魅力は感じなかったりするのである。確かにおさまるところにぴったりはまるのは気持ちがいいけれど、おさまり切らないところに中途半端に立っている居心地の悪さにも惹かれるのだ。そして、計算というものが大の苦手で数字相手にコツコツと取り組む根気に欠けている。そういう意味では私は本書のよい読者とはいえないのではないかと思う。
それにしても、奥深い世界に吸い込まれていった2人の人物の語る様子の生き生きとしていること! どんなジャンルであれ、好きなことに徹底してのめりこんでいく人間の気持ちをこれほど鮮やかに示した対談というのはそうそうあるまい。その様子を楽しむというだけでも一読の価値はあるというものである。
(2005年5月22日読了)