読書感想文


テレビアニメ魂
山崎敬之著
講談社現代新書
2005年5月20日第1刷
定価720円

 著者はアニメ制作の老舗「東京ムービー」で長年文芸を担当してきた。手がけた作品には「巨人の星」「怪物くん」「新・オバケのQ太郎」「赤胴鈴之助」「ど根性ガエル」「はじめ人間ギャートルズ」「元祖・天才バカボン」「宝島」「ベルサイユのばら」「名探偵ホームズ」「それいけ! アンパンマン」など時代を代表する作品が並んでいる。
 本書では、著者は当時のテレビアニメ制作現場の裏話をいろいと回顧している。たとえば「天才バカボン」は最初のシリーズではテレビ局側からの申し入れでパパの仕事を植木屋にしたりバカボンを毎日学校に通わせるなどしたりするという本来のナンセンス味を失わせるような設定になっていたのが、再放送での視聴率が高かったおかげで作られたリメイク作品では原作のナンセンスを生かしたものにできた。タイトルを原作者の赤塚不二夫さんに相談しにいったら、「より原作に近いというのでしょう。ならば『元祖・天才バカボン』がよいでしょう」と提案された。テレビ局と制作会社、原作者、さらにはスポンサー、視聴率などとの戦い(?)のようすがどのエピソードにもつまっている。
 アニメーターや演出家の立場から語られることが多いアニメの現場であるが、文芸といういわば重要ではあるが表に出てきにくい部門の担当者からの貴重な証言がこのような形で出版されたのが嬉しいことだ。一部マニアのためのものではない、幅広い層の子どもに向けて作品を作り続けてきた著者だからこそ、新書というこれもまた幅広い読者層を持つ形態でアニメを語るということに意味があるのではないだろうか。
 単なる裏話集ではない。ものを創り出すということがどのように苦しく楽しいものであるかを私たちに知らせてくれる好著である。

(2005年5月28日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る