読書感想文


パラケルススの娘1
五代ゆう著
MF文庫J
2005年5月31日第1刷
定価580円

 時代はヴィクトリア朝の英国。ロンドンでは降霊術が流行し、インチキ霊媒も横行している。そんな中で、術の間に本当に現れた霊のために人が死んだり傷ついたりするという事件が起こる。日本人で魔物退治を正業とする一家の嫡子として産まれた跡部遼太郎は、そのための能力が発現しないために、当主である祖母の指示で単身英国に渡る。遼太郎が預けられたのは、自ら「パラケルススの娘」を名乗る魔術師クリスティーナ・モンフォーコンのもとであった。彼はそこでいきなり羽の生えた猿バイロン卿やメイドのレギーネがクリスティーナに協力して霊と戦うさまを見せられる。クリスティーナを詐欺師として逮捕しようと狙うスコットランド・ヤードのリース警部や、魔術師を自称する伯爵家の爵子アレックスなども現れ、遼太郎は混乱するばかり。ふとしたきっかけで出会った寂しげな少女アナマリアは、霊媒師に使われて霊を呼び出す能力を持っていた。その霊を払おうとするクリスティーナ、少女を助けたい遼太郎。果たして霊能力のない遼太郎に少女が助けられるのだろうか。
 文化が爛熟すると、オカルティックなものが興味本位で扱われる。この当時の大英帝国もまた、そのようなものが流行していた。かのコナン・ドイルは降霊術を真剣に信じており、「霧の国」という降霊をテーマにした作品を残している。本作にドイルは登場しないけれども、シリーズが順調に進んだら、なんとか特別出演してほしいものである。
 それはともかく、本書はそんな英国に紛れ込んでしまったみそっかす少年を狂言回しに仕立て、当時の状況を異邦人の目から眺めさせながら、強大な力を持つ魔女(男装の麗人!)と謎の魔法使いの戦いを描いたシリーズである。その魔法による戦いの迫力、テンポよく進むストーリー、少年と少女の孤独な魂のふれあいなど、様々な要素をうまく盛り込んだもの。構成がうまくだれる場面がない。
 あとがきによれば、本巻は登場人物の顔見せなのだそうだ。顔見せでこれだけのものが出されたということは、本来のテーマが始まったらさらに読みごたえのあるものになるだろうと期待できる。作者の力量をこれまでにもいろいろと見せてもらっているだけに、その期待は嫌が応にも高まるのである。

(2005年6月4日読了)


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