読書感想文


戦争と漫才
藤田富美恵編
新風書房
2005年5月31日第1刷
定価1500円

 横山エンタツ・杉浦エノスケ、花菱アチャコ・千歳家今男、玉松一郎・ミスワカナ、林田十郎・芦乃家雁玉、林田五郎・柳家雪江、香島ラッキー・セブン、秋山右楽・左楽、三遊亭柳枝・文の家久月、アサヒヒノデ・ミスワカバ。戦前から戦時中にかけて人気をはくした漫才師たちの、「時局漫才」を集め、戦時中の装丁そのままに復刻したものである。ただし、これらの漫才が実際に演じられたわけではなく、秋田實を中心とした漫才作者たちが「読む漫才」として書き下ろし、戦地で戦う兵隊さんたちへの慰問品として送られたものばかりである。
 この中で戦後も実際に演じられて名作として残っているのは雁玉・十郎の「商売往来」くらいであろうか(ラジオ放送の録音が残されており、CD化もされている)。あとはどうしても戦争賛美、中国政府(特に蒋介石)への蔑視などが含まれており、戦後に演じるにはあまり適当とはいえないものが多い。
 編者は秋田實の実子で、実父や古い漫才師の残していたこれらの冊子をもとに再構成し、当時の「読み物漫才」の実物を現代の読者に忠実に紹介している。現存の「漫才集」のリストと収録演目をまとめた一覧表や、千歳家今男が撮影した「皇軍慰問わらわし隊」のスナップ写真を豊富に収録した解説書は、その解説の詳細なことも含め、非常に貴重な資料となっている。
 誰にでも勧められるものではないけれど、毒のない(政府や軍を風刺するような内容はご法度だったため)言葉遊びを中心とした無邪気な笑いの中に隠された当時の秋田たちの笑いに賭ける思いなどが伝わってくる。これだけしっかりした復刻版は珍しく、戦時中の状況を現代に伝え、規制の多すぎる中でそれでも笑いで何かを表現しようとした人々の熱意が再現された労作である。

(2005年6月19日読了)


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