SF翻訳家であり、書評家でもあり、SFにかかわることならなんでもやる著者の、単独名義としては初めての単行本ということになる。「小説奇想天外」に1987年から連載された「海外SF問題相談室」と「本の雑誌」に1990年より(中断した時期もあるが)連載されている「新刊めったくたガイド」を中心に、註や時代背景を説明した文章を加筆し、なるべく原型に近い形で収録している。
時代というものの息吹が伝わってくる。アメリカSFの新潮流であったサイバーパンクがもてはやされていた時代に始まり、本巻では「SF冬の時代」と呼ばれた時期までがその範囲にあたる。あの「クズSF論争」は、この時代の少しあとに始まるわけだが、「SF冬の時代」否定派のはずの人もこの時期に「冬の時代」と書いていたことが判明したりするのが興味深い。
本書を読んで強く感じたのは、著者のSFへのストレートな愛情表現である。もう少しひねった表現をしていたというような印象があったのだが、こうやってまとめて読むと、何のてらいもなくSFへの愛を語っていることがわかる。いや、愛がなければいくら仕事といってもここまでSFを読み続け、SFとは思えないものまでもSFとして読んだりはするまい。
時評というものは、雑誌に掲載された時点でその役目を終える。だから、なかなかこういう形でまとまることはない。まとめたからといって、そう売れるものでもないだろう。だからこそ、本書の価値は高いと思う。零細書評家である私にとっては羨ましい限りだ。いやいや、こんなにたまるまでまとめられなかったということの方が驚きもしれない。著者ほどの書き手でさえこうなのだから、あとの書評家については推して知るべし。
本書によって、ジャンル別の時評の価値というものが世間で再確認されれば、著者には及ぶべくもないけれども一応書評家の看板をあげている私にとっては、実に喜ばしいことだと思う。それだけの値打ちのある仕事をしてきているのだと感じられる一冊なのだ。
10月刊行予定の続巻では、「クズSF論争」の時期が重なってくることになる。さあ、改めて読み返したらどう感じられるのか。楽しみである。
(2005年6月22日読了)