読書感想文


ぺとぺとさん
木村航著
エンターブレイン ファミ通文庫
2004年3月3日第1刷
2005年6月13日第1刷
定価640円

 転校生、藤村鳩子は、妖怪「ぺとぺとさん」だ。ぺとぺとさんの先祖は道ゆく人の後ろについてただひたすらあとをつけるというものであったが、子孫を残すために、トラップ能力を身につけていた。それは、自分が愛しいと思う者に触れると、ぺとっと皮膚がはりついてしまうというものだった。そして、「ぺと子」というニックネームがついた彼女は、プールの授業中にクラスメイトのシンゴとぺとってしまう。シンゴは実はぺと子のことを可愛いと思っていたのである。そしてぺと子もまた。同じ中学校には、居場所を失った妖怪の子どもたちが人間に混じって転入学している。河童の妖怪、くぐる。ぬりかべの真壁ぬりえとその妹こぬり。ずんべらぼうの守口ジェレミー。人間と妖怪が共存するのどかな町に、ものものしい集団がやってきた。なんとくぐるの妹ちょちょ丸の配下たちが博多からくぐるを狙って押しかけてきたのだ。くぐるとちょちょ丸の血を血で洗う抗争の火蓋が切られようとしていた!
 妖怪と人間の共存する町ののどかな日常と、その生活のずれをほんわかと描き出すという設定である。この設定はなかなか秀逸で、いろいろなエピソードを積み重ねて一つの不思議な世界が形作られるということが期待されてしまう。
 ところが、河童の姉妹の抗争が物語の中軸となると、そののどかさやおかしみが吹き飛んでしまい、方向がずれたままアクションともアチャラカともつかぬ展開になっていく。最初の雰囲気を保つだけのディティールを積み重ねていくというところまで、作者の力量が及ばなかったということなのだろうか。
 しかし、ぺと子たちのキャラクター造形などはとてもいいムードがかもし出されて、魅力的である。続編ではこれを生かし切るだけのストーリーを作り続けていってくれることを期待したい。

(2005年7月25日読了)


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