読書感想文


召使いたちの大英帝国
小林章夫著
洋泉社 新書y
2005年7月21日第1刷
定価780円

 ヨーロッパにも、中国にも、日本にも使用人はいたのに、「召使い」といえば大英帝国なのである。なぜなのか。それは、英国の徹底した階級制度にその原因があると思われる。本書には、英国貴族の使用人たちの役職とその階級、そしてそれらの仕事がわかりやすく解説されている。さらに、その生活の実態や、退職後の生活など、あまり知られていない事柄もかいつまんで述べられる。
 面白いのは、英国から離れ、より待遇のよい植民地アメリカに渡った召使いたちが、比較的自由度の高い新天地から帰国すると、本国での待遇に不満を感じたりするくだりだろうか。また、20世紀に入ってからの召使いの制度の変容と、現代における召使い(執事やナニーが中心であるそうだ)事情にまで言及されているのも本書の大きな特徴だろう。
 本書を通じて、私たちは「階級社会」とは何なんだろうかということを具体的に知ることができる。そして、完成された制度というものは、たとえ現代に生きる私たちから見て奇異にうつろうとも、非常に合理的な秩序を持っていることにも気づかされるのである。

(2005年7月30日読了)


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