読書感想文


仮面ライダー響鬼 明日への指針
稲元おさむ著
原作・石ノ森章太郎
朝日ソノラマ文庫
2005年7月21日第1刷
定価552円

 僕の名前は安達明日夢。法事で行った母の実家、屋久島で、僕はヒビキさんという不思議な人に出会う。屋久島の森の中で蜘蛛の怪物に襲われた僕は、ヒビキさんが鬼に変身して蜘蛛を倒すのを見てしまう。東京の柴又に帰った僕を待っていたのは、城南高校受験という現実。僕はヒビキさんとよく似た雰囲気を漂わせるおじさんに出会う。おじさんは「たちばな」という団子屋さんのご主人で、やっぱりヒビキさんを知っていた。ヒビキさんは僕の知らないところで怪物退治をしていて、僕は僕で進まない勉強のことでいらいらしていたり。そしていよいよ受験当日がやってくる……。
 特撮番組「仮面ライダー響鬼」のノヴェライゼーションである。オリジナル・ストーリーに忠実であり、細部まで行き届いた描写、テレビでは解説し切れない背景などがていねいに綴られている。特に、物語は明日夢を中心に描かれているため、受験を前にした少年の心の動きなどが掘り下げられている。
 ただ、アプローチとしてはこれでいいのかという気もしないでもない。
 テレビドラマと小説とは別物である。映像には映像の、小説には小説の特質がある。その違いが十分に出ているかというと、そこまではいかない。もっと徹底的に明日夢の視点で物語をすすめるという選択もあっただろうし、響鬼たち「猛士」の側を掘り下げるという方法もあるだろう。さらには作者独自の視点でテレビとは全く違ったアプローチをとることもできただろう。
 ノヴェライゼーションということでかなり制約もあるのだろう。挿絵もテレビの映像をかなり忠実になぞったものになっているし、オリジナル・ストーリーからあまり逸脱してはいけないのかもしれない。その制約をくぐり抜けた上で独自の魅力を確立するところまでいかなかったのは残念である。
 もっとも、オリジナル・ストーリーの完成度がかなり高いから、アレンジしにくいということはあるかもしれないが。

(2005年8月1日読了)


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