読書感想文


スタジアムの戦後史 夢と欲望の60年
阿部珠樹著
平凡社新書
2005年7月11日第1刷
定価740円

 後楽園球場、両国国技館、川崎球場、日本武道館、東京スタジアム。5つの「スタジアム」がたどった歴史を探ることにより、日本の戦後という時代の移り変わりを浮き彫りにしていく。後楽園球場は、ジャイアンツという野球チームとともに戦後高度経済成長期を象徴する場所となった。しかし、ジャイアンツは後楽園、そして東京ドームをただ借りているだけで、根ざす地域というものがなかった。現在、球界改革が叫ばれる中で、根ざすべき地域が実はないのだということがここで明らかになる。なるほど、地域との一体型を目指す現在のプロ野球改革に対して、ジャイアンツが積極的になれないわけである。単に保守的だというだけでなく、地域密着型にした場合、生き残れないのは実はジャイアンツなのだ。
 地域に密着しようとしながら、東京の下町の人々に訴えかけられるチーム作りのできなかった東京スタジアムとオリオンズのオーナー永田雅一の物語には、ワンマンオーナーの見果てぬ夢が、ドルショック以降の日本では見られなくなってしまったことを実感させられる。また、川崎球場はユニオンズ、ホエールズ、オリオンズという具合に次々とここをフランチャイズとするチームが変わったがために、スタジアム自体のありようも変化せざるを得なかったという事実が提示され、スタンドが撤去されて、今こそ本当の意味で地元の人々のための球場になっているという皮肉な情景が描かれる。
 戦前の相撲のシンボルであった両国国技館が、占領軍に接収され、蔵前国技館で代用していた時代を経、春日野理事長の執念で新しい両国国技館が建設される。著者は、ここに昭和天皇の思いを重ね合わせながら、「国技館」という特別な役割を果たす場所の地霊との結びつきにまで思いを馳せる。そして、武道館という日本の伝統を体現したような場所が、ビートルズの来日以降、東京ドームの竣工まで、国際的なミュージシャンの活躍の場であったことを指摘する。
 スタジアムが建築物である以上、立地条件、地域住民との結びつきなどは無視できない要件である。そして、その中で行われる試合などの性質もまた。そのような要件は時代とともに変わる。そしてスタジアムも同様に変化していってしまう。その変化をクローズアップすることにより、「戦後」という時代の変化を絶妙に汲み取っていく著者の視線の鋭さと力量に唸らされる一冊である。
 本書では関東のスタジアムばかりがとりあげられている。著者にはぜひ関西編も著してほしい。そうすれば、戦後における東西の差というものもまた浮き彫りにされていくことだろうから。

(2005年8月3日読了)


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