読書感想文


「ダメな教師」の見分け方
戸田忠雄著
ちくま新書
2005年7月10日第1刷
定価860円

 著者は、「教育県」と呼ばれる長野県で私立高校、公立高校の社会科教員を勤め、公立高校の校長を経て予備校の校長、そして教育にかかわるNPO法人の代表をしている。その経験から、「生徒のため」にがんばっている教師の努力が、いつの間にか「教師のため」にすり変わってしまっているという指摘をし、そうならないためには、「教育」をサービス業と考え、顧客である生徒の評価をとりいれた勤務評定をすれば、教師が自分の授業に足りないものはなにかを考え工夫すると提言している。また、学校をよくする取組みにPTAに積極的に参加してもらうべきだとも主張する。生徒や保護者の意見を「外部」のものとみなし、教師の不祥事は学校内で処理してしまうような体質を改善するには、そのような「開かれた学校づくり」を心掛けるべきなのだという。
 こうやって内容をまとめてみると、耳の痛い意見もあり、なるほどと思わされるところも多い。特に生徒からの評価を真摯に受け止めることは教師にとっては重要なことだと私も思う。
 しかし、本書につきまとう違和感もある。本書で著者は自分が実践してきた(特に校長時代)取組みについて多大な評価を得たことを披瀝する。新聞記事にとりあげられたことをそれが成功したという証拠の「客観的な材料」として提示もする。管理職になる前は部活の指導で実績をあげたことを自慢する。さらに、教育者として参考書の執筆を多数してきたことを実績として示している。
 ところが、ここには肝心なことが抜けているように思われるのだ。参考書の執筆をいかに授業に反映させ、生徒たちから「面白い授業」と評価があったかどうかについては触れていない。勤務評定の中にクラブ活動の指導も入れるべきだというならば、教師にとっての部活指導はボランティア扱いをされてきているという事実もちゃんと指摘すべきではないか。あるいは、教員特別手当があるかわりに残業手当がつかないことや、担任をもったり、生活指導を担当したら時間外であっても生徒を指導しなければならないこともあることに対して具体的にどう給与に反映させていくべきかということなどについても定かではない。
 参考書を執筆したことを、エンドユーザーの評価を気にかけるようになったとしているが、個人的な経験では、研究発表や参考書執筆に力を入れているからといって生徒のニーズに応え得る「面白い授業をする」ことと相関関係があるとは思われない。
 また、若いころから教職員組合の教師とは折り合いがよくなかったらしく、なにかにつけて組合の「罪」の部分を強調するのもバランス感覚を欠いているように感じられた。「功」の部分もあったのではないかと思うのだが、長野県の教職員組合はそんなに質の悪い教師の集団だったのだろうか。
 本書で行われている提言には優れたものが多く、教師として肝に命じておかなけばならないことが書かれているとは思う。しかし、その根拠として示されている事項には恣意的な偏りが見られ、説得力を欠くというのが正直な感想である。

(2005年8月17日読了)


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