読書感想文


人はあなたの顔をどう見ているか
石井政之著
ちくまプリマー新書
2005年7月10日第1刷
定価700円

 著者は先天的に顔面の皮膚に赤いアザがある(単純性血管腫というそうである)。そのために、他人からのぶしつけな視線を浴びたり、初対面の人物から「その顔、どうされたんですか?」という配慮のない質問を受けたりするという不快な経験を子どものころからしてきた。いや、子どものころはもっとストレートに「化け物」などと呼ばれたりしたのだ。著者は自分の顔をあるがままに受け入れようと努力し、現在では「ユニークフェイスの会」の代表を務め、同様な体験に苦しむ人たちの援助を行っている。
 本書では、理想の自分の顔、現実の自分の顔、世間一般でいうところの普通の顔、その3つの顔のギャップについて考える。そして、自分を「ブス」と思い、プチ整形で少しでも美しくなろうとする若者の心理を考察する。
 人種や性別などによる差別は、外見的にはっきりとしている。民族や門地による差別も、外見的にはわからないが、社会的には認知されている。しかし、顔の美醜による差別は、特に若い時期にはかなり深い傷を心に刻みつけるにもかかわらず、差別として問題化はされていない。しかし、外見により人の内面までをも否定するような言辞は、はっきりとした差別なのだと、著者は断言する。
 著者はここで差別する側を糾弾しようとはしない。こういった差別に対し、ごまかすような対応をするのではなく、自分をしっかりと見つめて、理想の顔という幻想よりも、自分の顔はこういう顔なのだと認識することの大切さを説く。
 制服という枠にはめられると、それぞれの違いがより際立ってしまう。だから、よけいに「個性」を強調したくなるのだと、著者は考える。一つの規準があるからこそ、そこから外れたものはよけいにコンプレックスを感じるのではないかと疑義を訴えるのだ。
 個性を認め合うということとはどういうことなのか。顔の美醜という身近なところから人権というものを考えるきっかけをつくっていく。ユニークな、しかし非常に重い問題をはらんだ啓発書なのである。

(2005年8月19日読了)


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