創業500年を誇る和菓子の老舗の十七代当主が、御所にどのような菓子をおさめたか、時代によってどのように顧客が変化していったか、歴代の当主はどのような工夫を重ねたかなどを記したもの。
著者はこういうものを書くのになれていないらしく、上記のようなことを羅列するにとどまり、そこから先の面白さがない。例えば、それらの菓子がどのような席でどのように食されたかがわからない。納品書をただ見ているだけでは何も面白いわけがない。その菓子によって歴史がどう彩られていったのか、そこらあたりについて触れられていれば、菓子が歴史に果たした役割を知る、などという楽しみもあるのだが。
歴代天皇に徳川将軍に摂関家に梨園に文豪に財閥にひいきにされました、ありがたいことです。はあそうですか、それからどうなったんですか、老舗は違いますなあと読みながら何度思ったことか。虎屋の宣伝パンフレットをわざわざ金を払って読んだというような気分なのである。本書からは、虎屋の菓子を食べた歴史上の人物たちの生き生きした姿が全く見えてこないのだから。
和菓子と歴史上の人物の係という着眼点は面白い。しかし、当主に書かせるよりも、当主の話をききながら、ノンフィクション作家か歴史研究家がもっと掘り下げて書くという形の方がずっとよくなったと思う。新潮新書は、ここらあたりの人選や本の作り方がいつもうまくいっていないという印象を受ける。編集部の企画段階でなんとかならなかったのかと思う。
もちろん、時代とともに上菓子がどのように変化していったかという資料にはなると思う。ただ、それならば、一般読者を対象にした新書という形態には合わないのだよなあ。
(2005年8月25日読了)