地方都市辺里市の高校生、タクトは、ある夏休みに幼なじみの悠有、お嬢様学校に通う響子、同級生のコージンと涼とともに、あるプロジェクトをたちあげる。実は、悠有はわずか数秒だけ未来に飛べる「タイムトラベラー」だということがわかったので、その瞬間をビデオにおさめたりして調べようということなのだ。タクトたちは古今東西のタイムトラベル小説を読みあさり、悠有を走らせて時間を跳躍する一瞬をとらえようとする。何度やってもなかなか悠有は時間を跳ばなかったが、偶然彼女が「消える」瞬間を目撃したタクトたちは、本腰を入れて実験を繰り返す。彼らはあまりにもプロジェクトに夢中になり過ぎた。彼らの集う喫茶店「夏への扉」に謎の脅迫文が届いたのに、それを無視してしまうほどに……。
回想というかたちで物語は進行する。そして、どうやら悠有は物語のどこかで本当にどこかに消えてしまうらしいのだ。作者はそのことをくどいほどに読者に対して念押しをする。そのことによって、読者は悠有がどのような状況下で消えてしまうのかに気をとられるという計算があるように思われる。
また、タイムトラベラー小説についてのペダンティックとさえいえる解説も、タイムトラベルというものに読者の意識を集中させる手段だと思われる。
ただ、それが成功しているかというと、首をかしげてしまうことも事実なのだ。正直なところ、物語に吸い込まれるほど、作者の繰り返す「予告」に魅力を感じないのである。青春小説としては、それなりに読ませる部分もあるのだが、その饒舌な文体は、文学的にはいいのかもしれないけれど、エンターテインメントとしての面白さをもったものではない。
私の感じる小説の面白さとは性質が違うのかもしれない。だから、続巻で悠有が消えてしまったあと、タクトたちがそれに対してどういう行動をとるかというところが注目されるべきポイントなのだろうけれど、どんな行動をとったっていいじゃないかという気もしないではないのである。どう決着をつけるのか、予測がつかない。そういう意味では独自の魅力を備えているといえなくはないのだけれども。
(2005年8月21日読了)