ジオール大陸を縦横にはりめぐらせた鉄道網。そこを走る大陸横断急行グローリー号はエイヴァリー市の技術の精華であり、誇りである。鉄道会社社長の息子、テオドアは、社会勉強のためにこの〈千マイル急行〉に乗ることになる。同じ年頃の中学生たち……ローライン、アルバート、キッツとは、あまり話が合わないけれども、長い道中をともにする仲間でもある。しかし、快適な鉄道旅行は、一転して逃避行となってしまう。エイヴァリーを敵とするルテニア市とレーヌス市が手を組んで、エイヴァリーを攻撃し占拠してしまったのである。帰るところのなくなった〈千マイル急行〉の乗客と、攻撃を予測して急行列車に装甲車を付け足していたエイヴァリー軍の兵士たちは、援軍を求めて終点の采陽までひた走る。しかし、レーヌス軍の装甲列車は執拗に〈千マイル急行〉を追い、また追いつくと攻撃を始めてくる。逃亡に協力する都市、拒否する都市、中立の都市などをなんとか通り抜け、列車は走る。父の遺言により、列車のオーナーの座を譲り渡されたテオドアは、様々な体験を経て少しずつ成長していく。しかし目的地の采陽についた時、彼らを待ち受けていたものは……。
力強く走る蒸気機関車。男の子の憧れである。作者はそのような汽車の旅と、苛酷な運命を前にする少年たちの成長物語を重ね合わせ、読みごたえのある冒険小説を綴り始めた。
汽車のメカニズムの細密な描写などが、この架空の大陸での冒険譚にリアリティをもたせている。さらに、千々に乱れる少年たちの状況と、それに対する対応、そして成長の様子は、野望と欲望に満ちた大人の政治力学とあいまって、物語を息もつがせぬスピード感のあるものにしあげている。
目的地についてからの少年たちはどのような変化を見せるのか。完結篇となる次巻が楽しみである。
(2005年9月27日読了)