日清戦争前後に中国(当時は清)で発行された絵入り新聞で、日本人たちがどう紹介されているかを多数の図版を用いて示し、プロパガンダの滑稽さや情報のいびつな伝わり方などを明らかにした一冊である。
〈鬼子〉とは、もともと中国人が西洋人に対して用いた蔑称だが、明治維新以後西洋の文物をとりいれ侵略を始めた日本に対し〈東洋鬼子〉〈日本鬼子〉という呼び方が派生して、〈鬼子〉が現在にいたるまで日本人に対する蔑称として使われるようになったという。著者は現代の中国映画で描かれた日本人像や、古代の「山海図」などで描かれた〈倭人〉像をまず最初に紹介し、中国にとって悪役としての日本人や異界のものとしての日本があるということを示す。そして、明治維新の直後は東にある変な国として紹介していたのが、日清戦争時には野蛮で卑劣な日本兵という形に変化し、その後は冷静な視点で描かれていくということを時代を追って紹介していく。
ここで紹介されるのは中国人から見た日本人だけではない。やはり日清戦争中の日本のプロパガンダ報道も紹介し、どっちもどっちであることもちゃんと伝えている。つまり、どんな場合においても、情報が少ない時には意図的にねじ曲げたものをつくりだすか、あるいは想像によってふくらまされた珍妙で誇張された存在をでっち上げるということを、実例をもって示しているということなのである。
現在、私たちは高度に情報化された世界に生きている。しかし、どのような情報であっても全てを信頼できるかどうか。うわさ話やネットの書き込みなど、事実を誇張したり憶測が混じったりした情報を受け止めてしまうことはけっこう多いのではないか。
だから、本書で示された清代の中国人を笑うことはできないのである。どのような情報も、多面的に検証しなければ事実は見えてこないのだということを本書は教えてくれるのである。
それにしてもここに紹介された日本人像の珍妙なことときたらない。中国人(漢民族)にとって、中華世界から離れたものというのは、想像もつかない「異界」だったのだと改めてしらされる。中華思想というものを理解する上でも、本書はやはりいろいろなことを教えてくれるのだ。
(2005年10月24日読了)