韓国で絶大な人気を誇った大河歴史ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」の小説化。
宮廷で朝鮮王の食事を作るスラカンの女官ミョンイは、大商人チェ一族の策謀を偶然目撃してしまったことにより無実の罪で毒殺されてしまうところであった。しかし親友の機転で一命をとりとめ、瀕死の状態でいるところを宮廷の武官チョンスに助けられる。宮廷の陰謀に心ならずも荷担させられたチョンスはミョンイを妻とし、賤民に身を落して宮廷の追及から逃れる。利発な娘チャングムも生まれ、彼らは平穏に生活をしていたのだが、村の祭の場でチョンスがお尋ね者だということがわかってしまい、彼はとらえられミョンイは幼いチャングムを連れて逃亡する。親友のハン尚宮のもとを訪ねたミョンイだったが、チェ一族に見つかってしまいついには殺されてしまう。孤独な身となったチャングムは、料理人のカン・ドックに拾われ娘のように育てられる。チャングムは母の遺言である「スラカンの最高尚宮になって、母の無念を書き残してほしい」という最後の願いを叶えるべく、女官になりたいと切望する。なんとか女官となったチャングムは、ハン尚宮について料理の修行を始める。そのハン尚宮が亡き母の親友であったことを彼女は知らず、またハン尚宮もチャングムがミョンイの娘であることを知らない。それでも親子同様の絆で結ばれた二人は常に励ましあい、チェ尚宮との料理合戦に勝利してスラカンの最高尚宮の地位につくことができた。しかし、チェ一族の利権を守るために最高尚宮の座を手に入れたいチェ尚宮は、卑劣な手を使ってハン尚宮とチャングムを宮廷から追放することに成功する。チャングムは母の遺志をかなえることができるのか……。
ドラマようなの細やかな描写は本書にはなく、重要なエピソードもいくつか削られている。筋を追うだけというような構成になっていて、ドラマで見るほどの波乱万丈の展開にはなりえていない。
ノベライゼーションをしたウ・ヒョンオクという作者の略歴を見たら、童話作家とある。児童文学の分野で活躍している人のようだ。そして、目次の次のページに書かれている原題を見たら、「大長今(童話)」とある。本書は韓国で児童向けにリライトされたものを底本としているのであった。どうりで微妙な心の動きなどが省略されているのである。
物語の筋を追うのには適しているかもしれないが、ドラマ版の面白さを深めたいという向きにはお薦めしかねる。ただ、ドラマ版の翻訳では日本の視聴者にわかるように変えられていた言葉(「皇后」など)が、韓国の正しい表現ではどうであるのかなどを知るには適しているかもしれない。
全3巻という竹書房版の単行本を読めばよかった。ただ、ハヤカワ文庫で出ている「チャングム」は、主人公は同一人物をモデルにしているが、物語としては全く別のものであるので注意が要る。なにしろチャングムという女性は歴史上にその名は残ってはいるが、どのような人生を送ったのかなどは一切不明な人物なのだ。それだけにどのようなドラマでも作ることができるのだ。
それにしても児童文学を大人向けのような形で翻訳出版するというのはいくらなんでもどうかと思うのだが。
(2005年10月26日読了)