弘法大師空海を主人公に、その出自の謎や唐に渡った経緯などを解き明かしていく。そして、日本という国、あるいは中国という国において、いかに空海が希有な存在であったかが明らかになっていくのである。
作者は、いかにも作者らしく、小説ともエッセイとも歴史解説ともつかぬ書き方で物語を進めていく。空海はこう言ったに違いない、空海ならこの場合こうしたというのは自然なことであろう、空海はこう考えたと思われる……。断言をしないまま、しかし、その内実は断言しているのに等しい。読み手は、断言しているではないかと苦笑しつつその世界に引き込まれていくのである。
作者は空海が日本にいる頃から密教についてかなりの知識を蓄え、華厳宗の教えを学ぶことによりその理解を深めていったのではないかと作者は推測する。そして、唐に渡ったのは、密教というものを完成させる仕上げではなかったかと結論づけていくのである。
また、空海の自分を売り込む巧妙さなどにも触れ、聖にも俗にも通じた懐の深い人物像を作り上げていく。
本書は唐に渡り密教の師匠である恵果和尚に迎え入れられるまでを描く。この時点では無名の一学僧でしかない空海がどのような幸運を得て密教を完成させていくのか。下巻も楽しみである。
(2005年11月12日読了)