著者はCBSソニーで長年にわたり落語のレコード(CD)を制作し続けてきたベテランディレクターである。名盤と定評のある「圓生百席」をはじめ、古今亭志ん朝、柳家小三治のライヴ録音シリーズや、「朝日名人会」のシリーズ、そして上方落語では桂文珍のCDと、常にコンセプトのしっかりしたシリーズ企画を打ち出している。
そんな著者が、レコード会社にはいる以前に直接聞いた名人たちの高座の思い出、レコード企画にまつわる証言などをまとめた。すべて著者自身が見聞きし、経験したこと以外は書いていない。だから「本物」のもつ重みがある。
特に、初めて手がけた企画「圓生百席」を実現するために三遊亭圓生に初めて会いに行った時に「人情噺をきっちりと語ったものを作りたい」と提案し圓生が即座に反応をした時の様子や、小三治の最初の録音となった「子別れ」の通しで一部分だけを何度も取り直した時の状況から小三治落語の本質を導き出す筆致など、芸というものの奥深さを感じさせるものになっている。
落語を愛し理解し、落語家の芸を録音という形で後世に残すということを自分の役割として追求していく著者の姿勢に触れると、すばらしい作家の背後に必ず優れた編集者がいるということを思い出させる。裏方に徹しながら、表の部分を最大限めだたせるという仕事は誰にでもできることではない。それだけの仕事をしてきたという自負が本書からは感じ取れるし、事実その功績は大きい。
そして、こういう形で落語とそれぞれの名人の生きてきた時代を証言するという大きな仕事をここに成し遂げた。読んでいて、名人上手といわれた落語家たちの息遣いが感じられるようである。落語ファンに強くお薦めしたい1冊なのだ。
(2005年11月16日読了)