読書感想文


佐渡流人行
松本清張著
新潮文庫
1965年9月6日第1刷
2004年2月20日第42刷改版
2005年6月10日第44刷
定価667円

 社会派推理作家による異色の時代小説集。戦国時代に材を取ったものと、江戸時代の庶民を描いたものとが収録されている。
 戦国時代では、丹羽長秀の豊臣秀吉への屈折した思いを描いた「腹中の敵」。豊臣秀頼に成り済まして薩摩へ行く浪人が主人公の「秀頼走路」。毛利元就の策謀を描く「戦国謀略」。佐々成政の前田利家へのライバル意識が主題の「ひとりの武将」。室町幕府最後の将軍足利義昭を主人公にした「陰謀将軍」と、毛利元就を除いた全ての武将がライバルに敗れて無念の思いを味わったものばかりである。
 江戸時代のものは、大いびきをかくために命を落しそうになる罪人が主人公の「いびき」。自分の妻の想い人を佐渡に島流しにしていたぶる男の歪んだ愛を描く「佐渡流人行」。行方不明になった兄を探し、甲斐の金山に踏み込む弟を描いた「甲府在番」。遠島に流刑となったがいつまで立っても赦免されない男の苦しみが主題の「流人騒ぎ」。娘とともに料亭の下働きについた実直な老人の過去が明かされる「左の腕」。恐妻家の旗本が情婦の家で急死したことで巻き起こる騒動を描いた「怖妻の館」と、社会からはみ出た者たちの悲喜こもごものありさまが描かれたものばかりである。
 私は幼い頃に読んだ「腹中の敵」を再読しようと思い本書を手にとったのだが、その時の印象と違い、どの話もひねりのないことに驚いた。推理作家が書くからミステリ仕立てとは限らないとは思うが、登場人物の心情や身辺に起こる事件は、いずれも愚直なまでなほどの正攻法で物語が展開するのである。
 作者にとって、時代小説は自分の思いを仮託してそのまま描き切るというようなものだったのかもしれないと、本書を読んで感じた。ただ、ここまで敗残者にこだわるというのが興味深い。作者の心の奥底に沈みこんだコンプレックスが、時代小説ではそのまま映し出されてしまっていると解釈すればいいのだろうか。
 ひねりがないぶん食い足りないところもあるが、この敗残者の心情を徹底的に描き出す筆致にはかなり興味深いものを感じたのである。

(2005年12月14日読了)


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