読書感想文


はじめての部落問題
角岡伸彦著
文春新書
2005年11月20日第1刷
定価730円

 被差別部落、同和地区……呼び方は様々であるが、中世以降賤民階級とされた人々の子孫や、それらの人々が代々居住してきた村に住む人々の現状はどうなっているのだろうか。そして、解放運動は現在どうなっているのか。
 本書は、部落出身者であり阪大で部落問題に関する講座を持っている著者が、部落問題に関する知識がまったくない人を対象に著したわかりやすい解説書である。
 著者は私と同世代である。はげしい解放闘争などが終ってから運動の中核を担っている世代ということになる。だから、例えば子どもの頃から露骨な差別を受けてきたわけでもなく、大学に入学してから自分の勉強のために部落問題研究会に入会したりしている。したがってその視点はかなり冷静であり、例えばメディアの過剰な言葉狩りなどには批判的である。
 部落問題はなくなったわけではない。居住環境や教育環境は改善され、就職差別を防ぐ仕組みも整備されてきた。しかし、心情面ではどうであるか。あるいは「同和教育」は目的通り機能しているのか。
 偏見、差別はまだなくなってはいないと、著者は明言する。その中で、部落差別はなくなっても、「部落」そのものはなくさなくてもよいという考えを提示している。これは、これまで私が少しばかりかじってきた「被差別部落本」にはない視点である。「被差別」という過去を持つ者は、だからこそ新たな「差別」が起こった場合に対してしっかりと発言できるのではないかという問題提起である。
 さらに、いわゆる「同和利権」による犯罪行為に対しては、部落出身者という立場から批判もしている。ただ、残念なのはそこのところにもう少しメスを入れてほしかったように思う。現在、「同和利権」に対する批判はやはり強く、そこから新たな偏見が生まれてくるということもあり得るわけで、今後の展望を語る際には避けて通れない事柄だと思うからである。
 しかし、闘うというスタンスではなく、理解してもらい感じとってもらおうという姿勢には好感が持てる。「知らなければ差別は起こらない」ことは決してないと著者は説く。「知らないからこそ、差別や偏見に対して反論できず自分も差別に加わってしまう」ということなのだという著者の意見には賛意を示したい。そのためにも、食わず嫌いではなく手にとる価値のある一冊であると思う。

(2005年12月18日読了)


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