読書感想文


日米野球裏面史 美少女投手から大ベーブ・ルースまで
佐山和夫著
日本放送出版協会
2005年9月25日第1刷
定価1500円

 明治41年に訪れた来日第1号の米国野球チーム「リーチ・オール・アメリカン」の真相。アメリカン・フットボールの功労者であるジム・ソープが若き日に世界周遊の野球チームの一員として来日していた話。大正末期に訪日した少女プロ野球チームの悲惨な結末。メジャー・リーグ訪日の影に隠れてしまっている黒人リーグチームが日本にもたらしたもの。日本にメジャー・リーグ選抜チームを連れてきた男、ハーブ・ハンターの真の目的。ベーブ・ルースが「オール・アメリカン」の一員として日本にまでやってきた本当の理由とその結末。戦後の日本に真の親善大使として来日したサンフランシスコ・シールズとそれをバックアップした日系二世の軍人キャピー原田の物語。そして女性審判としてオリックスブレーブスのオープン戦に帯同し話題をまいたペリー・バーバーの素顔。
 本書は、明治から平成にかけて日本にやってきて、日本の野球に大きな影響を与えた人々の姿を、長期にわたる綿密な取材と著者自身の経験をもとにして浮かび上がらせた好著である。もともと野球熱の高かった日本という東洋の島国に降り立った彼らは、時には教師として、時には野球の広報担当として、そして親善大使としてそれぞれの役割を果たしていたのである。
 本書の特徴は、これまで定説として語られていた事柄の裏に隠された真実を明らかにしていることや、歴史の中に埋もれてしまった人々の再評価をしていることである。そのことにより、日本のスポーツ界にとって「野球」という競技が大きな存在になってきたことが明らかになる。それだけではなく、日本とアメリカを結びつける要素として「野球」がどれだけ重要な役割を果たしてきたかということを明確にすることに成功している。
 日本に野球用品の市場を広げようとしたアル・リーチにしても、興行としての野球の価値を知らしめたハーブ・ハンターにしても、彼らは必ずしもその時には成功はしなかった。しかし、彼らのおかげで日本の野球チームの技術は向上し、プロ野球リーグ設立の機運がもたらされたのである。そして、メジャー・リーグの選抜チームに徹底的にやられてプライドを失いかけた日本チームに、野球という競技を楽しむことを教えてくれたのは黒人リーグのフィラデルフィア・ロイヤル・ジャイアンツであった。
 日本における野球人気は決して読売巨人軍だけが作り上げたものではないである。先人たちの功績を知ることにより、プロ野球のあり方などを再度考えることができる。本書はそのエッセンスを選り抜いたものだ。
 ただ、この素っ気無いタイトルはなんとかならなかったものか。確かに内容を正確に示してはいるけれど、もう少し気のきいたタイトルをつけてもらいたかった。

(2005年12月30日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る