今は亡き爆笑王、桂枝雀の得意演目の速記に落語作家小佐田定雄の解説を付したもの。本巻には「くしゃみ講釈」「ちしゃ医者」「うなぎや」「米揚げ笊」「舟弁慶」「植木屋娘」「口入れ屋」「不動坊」「あくびの稽古」「替わり目」「寝床」「かぜうどん」を収録している。
随所に高座の写真が挿入されていて、生前の熱演を思い起こすよすがとなっている。ただ、こうやって読み返すと、枝雀落語はあの独特のイントネーションやアクセント、間のよさ、そしてアクションがないとやはり物足りないと思ってしまう。こればかりはしかたないのだけれど。
ただ、活字におこしたものを純粋に読んでいると、枝雀ならではの理屈のつけかたが際立ってくるのは確かである。不要と思われるところは大胆にカットし、「ほたらなにかい?」と問い掛ける形で始めるスタイルの合理性や、もともとの落語にあったあくどさやいやらしさを極力排しているのがはっきりとわかるのだ。
例えば「米揚げ笊」のサゲ直前の改変などは、CDなどで聴いた時には「あらら、カットしたなあ」と漠然と思っただけなのだけれども、こういう形で読むと主人公のあっけらかんとした人格がより強く表現されていることがわかる。
「知の人」枝雀が、細かいところまで理屈をつけて組み立てたものを誇張した演出で演じるからこそ、枝雀落語は爆笑を生んだのだと再確認できたのであった。ただ、枝雀落語をリアルタイムで知らない世代が本書を読んだだけでそれを理解できるかどうか。そこに米朝落語との相違点を感じるのである。
(2005年12月31日読了)