読書感想文


おまかせハウスの人々
菅浩江著
講談社
2005年11月28日第1刷
定価1500円

 作者久々の短篇集。
 AIロボットを里子として預かり親代わりになって教育するモニターを引き受けた女性がぶちあたる「子育て」の壁を描く「純也の事例」。相手の表情から内心を読み取るという機械を購入した対人関係に『鈍感』な男の悲喜劇である「麦笛西行」。治療用のため体内にナノマシンを入れた女性に対する周囲の反応と本人の心情を描いた「ナノマシン・ソリチュード」。普段食べる食品のせいで引き起こされる『フード病』で姑を失った嫁とその小姑の切なくも哀しい戦い「フード病」。対人関係で鬱になりつつある若い会社員が友人に勧められて服用した薬の劇的な効果とその効果が招いたものが語られる「鮮やかなあの色を」。家事労働から全て解放される『おまかせハウス』にモニターで住み込んだ家族たちの織り成す人間模様を、メンテナンス担当者の目から描いた「おまかせハウスの人々」の、6編を収録している。
 全体に通じるテーマは「対人コミュニケーション」の問題である。いずれも近未来を想定して書かれた作品で、特に連作というわけではないのだが、ここまでテーマが共通しているということは、作者が今もっとも関心を持っているテーマなのだろう。
 実際、道具が便利になるにつれ、人と人とのコミュニケーション能力の低下が問題にされることは多い。作者は本書の各作品を通じて、そういったコミュニケーションの苦手な人やできないというような人たちの姿を活写する。彼らはいずれも円滑なコミュニケーションを求めているのに、それができないで苦労する。
 では、コミュニケーションとは何か。ただ人当たりがよくそつなく人と相手ができる人間は、本当のコミュニケーションを取っているわけではないということは確かであろう。だとしたら、本当の意味での「コミュニケーション」とは何なのか。作者が投げかけてくる疑問は、近未来だけの課題ではない。まさに今こそそれが必要となっている時代なのだという、作者の思いがひしひしと伝わってくる良質の短篇集である。

(2006年1月3日読了)


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