読書感想文


「非国民」のすすめ
斎藤貴男著
筑摩書房
2004年4月10日第1刷
2004年6月20日第4刷
定価1700円

 住基ネットワーク、国民情報保護法、健康増進法、自衛隊イラク派兵、石原東京都知事の暴言とそれを容認する都民、そして御用メディアと化した報道機関……。フリージャーナリストである著者は、これらの問題に関して積極的に批判の声をあげ、反対運動にも協力してきた。そういった活動の一端をまとめたものが本書である。その時々に雑誌や新聞に発表してきたものに書下ろしを加え、日本という国に住む人々が、何か犯罪や事件があるたびにそれを口実に少しずつ政府の管理下におかれていく様子が明らかにされていく。
 便利さや安全という言葉とひきかえに、自由や平等という基本的人権を奪われていき、それでもそのことに対し危機感を抱くどころか唯々諾々と従う人々の多さに対し、著者が苛立っているのが手に取るようにわかる。そして著者は、「非国民」と呼ばれようと、自由や平等という権利を守らなければならないと表明するのである。
 にもかかわらず、本書刊行の1年半後、「小泉劇場」と称される一連の動きにおいて、首相その人の手により、同じ党に所属しながら自分に反対するものを弾圧するかのような総選挙が行われ、国民の多数がその弾圧を支持するという結果が生じたのである。
 大半が二世議員と官僚出身者でかためられた内閣で、「部落出身者を総理にするわけにはいかない」と放言した人物が次期首相の候補にあげられる。日本の政府をそんなものにしたのは、私たち国民なのだ。その現実を思い、それを裏付ける著者のルポを読むと、暗胆たる気持ちになってしまうのは私だけだろうか。

(2006年1月3日読了)


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