読書感想文


都市伝説セピア
朱川湊人著
文藝春秋
2003年9月25日第1刷
2005年7月25日第2刷
定価1571円

 直木賞作家のデビュー作を含む短篇集。
 河童の氷詰めという見せ物に引き寄せられた少年が出会った少女への思いを描く「アイスマン」。公園で別れたばかりの友人の事故死に接した少年が、その別れた時点にタイムスリップしてしまい、友人を死なせないように何度もやり直そうとする「時間公園」。都市伝説〈フクロウ男〉を自作自演し、ついには全国にその都市伝説を広めようとする男の皮肉な運命を描く「フクロウ男」(「オール讀物推理小説新人賞」受賞作)。偶然手に取った本に書かれている自殺者の日記を読み、その自殺した男性に恋をしてしまった女性たちの醜くも哀しい物語である「死者恋」。電車の窓から見かけたマンションのベランダに自分が心に残した人物があらわれ、その正体を探る男の出会う不思議な人形の物語である「月の石」。以上5編が収録されている。
 哀しみを心のうちに秘めた人々が、あるいは心の奥に傷を隠した人物たちが、不思議な現象にに出会う物語が中心となっている。時に残酷な、また寂寥感のある作風ではあるが、短篇集のタイトルに「セピア」とつけられているように、生々しさは感じさせず、セピア色の古い写真を見るかのような淡い残像が残るという感じがする。
 そういう意味では、ホラーというよりはファンタジー色が濃い。真性のホラーを書くには、作者には邪悪な部分がないのではないかと思う。歪んだ心の人間を描こうとしたデビュー作にしても、歪み切っていないのだ。
 それを物足りないとするか、救いがあるのを好むかで評価は別れるのではないかと思う。私にはもう少し毒気がほしいと感じられたけれど。ただし、舞台設定の作り方や物語の雰囲気の醸し出し方などには初期作品ながらさすがにうまさを感じさせる。薄口ホラーだからこそ、舌の上に旨味が残るというべきだろうか。

(2006年1月15日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る