読書感想文


モーツァルト 天才の秘密
中野雄著
文春新書
2006年1月20日第1刷
定価750円

 今年2006年、生誕250年を迎えた天才音楽家W.A.モーツァルトの評伝。
 モーツァルトがなぜ天才と呼ばれるのか。そんな天才がなぜ死の直前は不遇であったのか。モーツァルトが天才に育った理由は。名曲が作られてきた背景には何があったか。様々な伝説があるこの音楽家の真実を、数々の名演CD紹介などをはさみながら綴った好著。
 遺伝的なものに加え、父レオポルトが幼い日から息子を天才少年としてウィーン、イタリア、パリとお披露目興行と自身の求職をかねて音楽の都をまわる旅をしたことで、優れた音楽環境にその年齢にみごとに合った形で巡り会ったことが、モーツァルトの才能を開花させたと著者は見る。さらに、厳格な教育者であった父の元を離れて母とともにパリへ行ったけれども、まったくお呼びがかからない上に母まで亡くしてしまったことが、彼の音楽に深みを与えたとする。挫折、そしてそこから得たものが、貴族からの注文をうけてお好みの音楽さえ作っていればよしという当時の作曲家たちとは違ったものに彼の音楽を変えていったのだ。そしてウィーンでの結婚とオペラの成功。絶頂期を迎えたモーツァルトは、さらに自分の音楽を革新的なものにしていく。ところが、貴族たちはそのようなものは求めてはおらず、社会的な不成功が彼の精神も肉体も疲弊させていく。
 著者のモーツァルトの音楽への愛情、また、だからこそ厳密に史実を追い、伝説の真相を冷静に追求する姿勢が、本書をモーツァルトの世界へのよい手引書としている。1991年の没後200年の時も数々の名盤がCD復活したけれど、今年もおそらく多くのCDが企画され、これまでモーツァルトに関心のなかった人も買い求めることだろう。本書を片手にモーツァルトの小品などを聴き、その音楽に込められたものを感じとる助けとされたいと願う。

(2006年1月28日読了)


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