読書感想文


私の嫌いな10の人びと
中島義道著
新潮社
2006年1月20日第1刷
定価1200円

 著者の嫌いなタイプの人間を列挙し、なぜ嫌いかという理由を述べたもの。ただし、社会一般で嫌われる人間については別に自分が書く必要はないとしてそれは省き、社会の中で美徳とされている性質の人々に対する異議申し立てをしている。「笑顔の絶えない人」「常に感謝の気持ちを忘れない人」「みんなの喜ぶ顔が見たい人」「いつも前向きに生きている人」「自分の仕事に『誇り』をもっている人」「『けじめ』を大切にする人」「喧嘩が起こるとすぐ止めようとする人」「物事をはっきりと言わない人」「『おれ、バカだから』と言う人」「『わが人生に悔いはない』と思っている人」がその10のタイプである。
 むりやり10という数にそろえるために無理をしているところもあるし、表題の意味と内容にいくぶんずれがあるように感じられるものもあるけれど、結局言いたいのは、次のタイプが嫌いだということである。
「私は自分の頭で考えることができず自分を内省的に振り返ることもせず自分の生き方を人に押し付けるような人間が嫌いだ」。
 それを具体的な例をあげて懇切丁寧に教えてくれるのが本書というわけだ。確かに私も著者の書くような人間は嫌いだ。しかし、自分がややもするとそういう嫌いな人間と同じ行動をとってしまってることに気がつくと自己嫌悪に陥るし、だいたい高校の教師というものは大学の教授と違い、自分は嫌いでこういう人間になってほしくないと思って指導しようと思っても、学校全体の方針には従わなければならないので、主張を貫き通せず折れてしまう自分も嫌いだ。
 本書の欠点は、自己嫌悪に陥って自分に恥じ入るというところのないところで、それさえあれば啓発の書としてはなかなかすばらしいものになったと思う。それがないので、いつものように自分勝手なことを偉そうに書く変人なおっさんの本というスタイルで終ってしまっている。そして、著者はそういう自分を故意に演出しているところがあって、困ったことだと常々感じているのである。

(2006年2月4日読了)


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