世界中にロッジをもつ秘密結社フリーメーソン。入会の儀式や会員を認識する握手、暗号などは会員以外には知らされず、陰謀説などトンデモ本の餌食となっている団体である。著者は、その由来や歴史、そして世界史上で果たしてきた役割などを正確な事実とそこから広げられる想像力とで紡ぎだしている。
石造りの建築物が大量に作られた時代、石工たちはヨーロッパ各地を渡り歩き、独自のネットワークを形作りながら、情報網をも発達させた。それが「実務的フリーメーソン」のはじまりである。やがて、その情報網を求めて石工以外の人々もその組織に加入しやがて職業とは無関係な「思索的フリーメーソン」が成立する。それらはテンプル騎士団などと同化しながら独自の規律と儀式をまとめあげ、いくつかの派閥はあるが世界中にその組織を広げていった。フランスでは革命の素地を作り、アメリカでは独立戦争の指揮者たちがフリーメーソンの理想を掲げて建国をした。
著者は、明治維新の立て役者たちを海外に留学させたりする後ろだてとなった商人グラバーに注目し、彼がメーソンであったという前提のもとで、坂本龍馬たちがなぜ若くして一気に開国維新という活動の中心となれたかを推理する。明治維新には、グラバーからもたらされたフリーメーソンの理想が志士たちに投影されて起こったものだとするのである。大胆な推理であり、確固たる根拠があるわけではないが、その可能性を捨てきれるものではないだろう。
はっきりと書いているわけではないが、記述のそこかしこから著者もまたメーソンであることを匂わせている。つまり、本書は単に興味のある人物がフリーメーソンについて中途半端な知識を駆使して陰謀説をふりかざしたものではないということである。私自身の経験や知識と照らし合わせても、著者がメーソンであることは確からしく思われる。
そういう意味では、本書はメーソンの一人が一般の人々に対してフリーメーソンに対する誤解をとこうという意図をもって書いたものであろう。ただ、普通の解説書にするには秘密が多すぎて説明しにくいので、大胆な推理を中心に置いて興味を深める一助としたのではないだろうか。
トンデモ本でフリーメーソンに対する誤った知識を得てしまった人には、本書をぜひお薦めしたい。なぜフリーメーソンが世界を裏で動かす陰謀をもっているなどという話が流布してしまうのかがわかるはずである。
(2006年2月7日読了)