読書感想文


絵はがきにされた少年
藤原章生著
集英社
2005年11月23日第1刷
定価1600円

 第3回開高健ノンフィクション賞受賞作。
 著者は毎日新聞社の特派員。アフリカ在勤の5年間の間に取材して得た事実をまとめたものである。
 白人との混血であるがために暴動の際にはまず標的になってしまう老人。隣国へ出稼ぎに行って金鉱採掘のチーフとなったことを誇りに思う老人。少年時代にクローケーをしているところを白人に撮影され、大人になってからそれが絵はがきになっていることを知り、その絵はがきを宝にしている老人。どんな取材に対してもほとんど口を開かないことで、逆に激動の時代を生きてきた、その歴史の生き証人たり得ている老人。かつてツチ族の反革命リーダーとしてチェ・ゲバラからも連絡のあったという老人。レイプという犯罪が日常茶飯事となっている町。
 ツチ族とフツ族はどう違うのか。ある老人はその理由を尋ねられ、笑う。「そりゃ、神様だけが知っている謎ですよ」と。ちょっとした顔つきの違い、あるいは支配していたものとされていたものとの違い。日本でも被差別部落民とそうでない者のはっきりとした違いを誰が答えられるだろう。アフリカの問題だから特殊なのではない。本書を読んで、私は構造主義者ではないけれど、人間の住むところすべてに何かしら共通した構造が横たわっているものだと感じさせられた。
 暴動と疫病と貧困と飢餓……。著者は紋切り型の表現でアフリカ全体を語らない。様々な人物の生き方や考え方を通じ、文化や歴史的な背景が違う者が知らない国について軽々しく同情することを著者は戒める。それは、5年半、家族とともに南アフリカに住み、肌で感じたことだけを書く著者の姿勢にあらわれている。
 1冊の書物を読んだだけで全てを知ったような気になってはいけないだろう。しかし、何も知らないのにしたり顔で語ることの愚ろかしさは、本書を読んだことにより、強く感じさせられた。
 文明とは何か。歴史とは何か。民族とは何か。様々なエピソードが、私たちにものを考える機会を与えてくれる。優れたルポルタージュが与えてくれる、最高の機会だと思う。

(2006年2月12日読了)


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