読書感想文


大リーグが危ない
佐山和夫著
新潮社
2006年2月15日第1刷
定価1200円

 野球ノンフィクションにかけては日本でも有数の実績を持つ著者が、アメリカプロ野球、メジャーリーグの問題点を徹底的に追及した一冊である。
 ドーピング、スピットボール、加工バット、そして八百長。メジャーリーグに蔓延する「金のためならなんでもあり」という風潮を著者は糾弾する。それは、ただ現状を追っただけではなく、野球というスポーツの誕生からプロ・チームの発生、そしてリーグ結成という歴史の中で、いかに野球がフェア・プレーから離れていったかを説いていくのだ。だから、説得力がある。
 しかも、高校野球から少年野球にまでこれらの問題が広がっていっているという事実をもとに、中南米からのアメリカへの移民がおかれている状況などが解説されていく。貧困層が成功するためには、プロスポーツで一山当てるのが一番の近道なのだ。
 野球というアメリカの「国技」に焦点を当てつつ、そこからたくまずしてアメリカという国家の抱えている問題点を浮かび上がらせる。上級のノンフィクションが持つ力である。
 日本のプロ野球の一流選手たちが「最高のレベルのところに身をおいて、自分の力を試したい」という。しかし、フェア・プレーという観点から見たら、日本の方がアメリカよりもずっとレベルが高いと、著者は説く。野球取材についての優れた実績がある著者の言葉だけに、その持つ意味は重い。

(2006年2月20日読了)


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