読書感想文


あの頃こんな球場があった
佐野正幸著
草思社
2006年2月14日第1刷
定価1400円

 東京スタジアム、後楽園球場、川崎球場、横浜平和球場、早大安部球場、大阪球場、西宮球場、日生球場、藤井寺球場、平和台球場、県営宮城球場、札幌市営中島球場、洲崎球場、上井草球場、武蔵野グリーンパーク、駒澤球場。
 いずれもかつては存在し、大学野球やプロ野球の公式戦も行われた球場である。しかし、老朽化やフランチャイズから外れたというような理由から取り壊され、現在はどの球場も存在していない。著者は阪急ブレーブス、近鉄バファローズの応援団長として長年球場に通い続けているわけだが、実は野球に関することなら何でも実地にあたっておきたいと、伝説の横浜平和球場や早大安部球場などにも取り壊される前にちゃんと足を運び、自分が直接感じた野球場の風景を再現してみせている。
 もっとも、プロ野球草創期に使用されたが現在では場所すら特定されていない洲崎球場や、武蔵野グリーンパークなど、さすがの著者でも実際に行くことができなかった球場については、様々な資料をもとにその雰囲気を再現しようと試みているのだが。
 野球に関するものは、場所でも空気でもすべてが好きだという著者の気持ちが伝わってくる。そして、実際に行った者でないと書けない野球場をとりまくあらゆる風景が本書には綴られている。私も中学生時代に行った西宮球場などのことを、本書を読みながら思い出していた。駅から球場へ行く時の風景や、球場の外観などが蘇ってくる。
 そこに野球があったのだ。そして、ドラマが生まれたのだ。もう今はない幻の空間で、かつての名選手たちがすばらしいプレーをしてくれているのが目に浮かぶようだ。古くからの野球ファンにはこたえられない一冊である。

(2006年2月21日読了)


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