日本では「2・26事件」のかわりに「満蒙事件」と呼ばれる事件が起こって満州派が一気に勢力を持ち、リットン調査団が日本の意見を認める結果を出し、アメリカとの戦争が回避された世界が舞台である。ナチスドイツはポルシェ博士主導のもとに「機動要塞マンムート」を開発し、欧州戦線では依然として強い力を持っている。しかし、日本で石原莞爾や北一輝らが爆殺され、ドイツではヒトラーが爆殺されるという非常事態が起こる。ヒトラーの死をきっかけにドイツでは内乱が起こり、日本から派遣されている兵士たちが操縦する「マンムート」もまたその混乱状態の中で独自の動きを始める……。
改変された歴史の設定は面白く、「マンムート」という兵器の影響で歴史が簡単に変わることについての不満を除けば、ストーリー自体には破綻はない。ところが、作者の「マンムート」への愛着はかなり強いらしく、本書の半分くらいはこの兵器の技術的な解説や設計された経緯やその仕様や兵器としての威力などに費やされている。
したがって、ストーリーはスムーズに進まない。残念ながら、作者の新兵器への思いが先行し過ぎてしまったようだ。ディティールは大切だ。しかし、細部を書き込んだがためにストーリーが流れていかないというのはかなり厳しいものがあるといわざるを得ないだろう。
作者にはやはりSFとしての面白さを感じさせるような架空戦記に挑戦してほしいものである。それだけの力量はあると思うのだ。
(2006年3月4日読了)