読書感想文


大阪弁「ほんまもん」講座
札埜和男著
新潮新書
2006年3月20日第1刷
定価680円

 テレビの全国放送で大阪の芸人が認知され、大阪弁も全国的に使われたりするようになったというが、それらの大阪弁の中には「にせもん」もある。たとえば「もうかりまっか」と商人があいさつで使うということや、菊田一夫の造語であるところの「がめつい」、CMで「どキレイ」「どうまい」などと接頭辞に「ど」をつけて肯定的にいうこと、「こてこて」に象徴される大阪という誤解、本来は味についての形容詞である「まったり」などがそうである。
 逆に、今は死語となったものもあるが、本来の大阪弁はもっと品があり柔らかく奥床しいものであったと、著者は主張する。「おはようおかえり」「よろしゅうおあがり」「ぼちぼち」などに代表される、相手に対して柔らかく響く言葉がそうである。
 著者は東京の大学に4年間通った後、大阪の大学院で言語学を研究し、現在は京都府立高校に勤務するかたわら「日本笑い学会」の理事をつとめている。プロフィールを見ると、私と同い年である。
 著者の大阪弁に対する愛着が伝わってくる。また、文学作品や辞典などからの用例を多く提示し、自分の経験だけで大阪弁を語るということのないようにしているあたり、著者の主張は客観的で裏づけのあるものということがよくわかるようになっている。
 私は現在は大阪に住んでいるが、京都に生まれて京都に育った人間なので、少し突き放して大阪弁を見ることができる。そういう目で本書を見ると、例えば京都弁でも使う言葉もあるし、大阪だけの言葉もある。となると、「ほんまもん」の大阪弁だけを扱っているかどうか、あるいは摂津、河内、和泉の区別はどうなっているか、厳密な分け方がなされていないのが少々気になった。そういう意味では本書は著者の大阪弁研究の途中経過にあるものだといえるだろう。
 ただ、それは近畿の人間だから言えることであって、関東をはじめとする全国の読者に対しては、やはり意味のある一冊といえるだろう。少なくともテレビなどで作られた類型的な大阪のイメージは本書を読むことによって払拭されるだろうし、またそうでなければ本書が出版された意味がなくなるだろう。
 したがって、本書は近畿以外の人々に多く読んでもらいたい本である。
 ところで私の「ぼやき日記」の文体であるが、あれは厳密には大阪弁でもないし京都弁でもない。書き言葉としてどの地方の人にもわかりやすいように共通語の文体に関西弁的な言い回しを加味したものである。「ほんまもん」の大阪弁や京都弁で書いたら、おそらく意味がわからない部分が多数でてくると思われるので、かなり苦労して「関西弁風書き言葉」を作って書いているのである。それくらい各地のお国言葉というものは奥が深く、難しいものなのである。

(2006年3月23日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る