読書感想文


理屈は理屈 神は神
かんべむさし著
講談社
2005年4月15日第1刷
定価1500円

 SF作家の著者が、入信して10年になる宗教団体について、その入信した動機や信仰にいたる経緯、そして信仰したことで今自分が得ているものなどを綴った「自分史」である。
 著者の信仰告白ということになるのかもしれないが、本書での著者のスタンスは普通の信仰告白ものとはいささか違っている。というのも、とにかく自分を客観的にとらえようとしているのである。「自分史」というよりは、あるSF作家が信仰にいたったというドキュメントといってもいい。
 SF作家というのは、基本的には物事を相対的にとらえ、視界を広くとるものだ。著者もまた、そういうスタイルの作風である。特に著者の場合は非常に理屈を通したものを書く。そういう著者だけに、自分の信仰告白もまた理屈が通っていないと気がすまない。だから、本書では「おりあいをつける」という言葉がしょっちゅう出てくる。つまり、盲目的な信仰ではないということを自分に言い聞かせないと気がすまないという感じなのである。その「おりあい」のつけ方が非常に興味深い。
 現代の日本では、特定の宗教を信仰しているということを告白するだけで異端者のような扱いを受けてしまう。それは悪徳新興宗教や犯罪新興宗教がニュースとして大きくとりあげられたりすることが多いからであろう。そういう意味では作家にとって「信仰告白」は勇気のいることである。しかも、著者は宗教の教義を広めようという意思がないということを示すため、本文中では一切その宗教団体の名を明かさないというかたちをとっている。
 私は高等学校で「倫理」という科目を教えているということもあり、宗教や信仰というものに対し、いろいろな意味で関心がある。そういう意味では、本書は「信仰」とはなにか、「宗教」の持つ意味はどこにあるかというような知的好奇心をかきたててくれる格好の教材である。人が生きていく上で、よりどころとなるものはやはり必要である。それは宗教であっても哲学であってもよい。
 ただし、それはやはり個人的な体験であるべきだと、私は考えている。そこは著者のスタンスと共通する部分であろう。だからこそ、本書は人が宗教を信仰するということの本質を明らかにしてくれているのだと思うのである。

(2006年3月30日読了)


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