読書感想文


プロ野球戦略会議
二宮清純著
廣済堂出版
2006年4月20日第1刷
定価1400円

 2004年の大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの合併問題に端を発した球界改革のあり方は、2006年の第1回ワールド・ベースボール・クラシックの日本チーム優勝という結果を経て、大きく変わろうとしている。本書はプロスポーツに関するノンフィクションライターである著者が、その時々の状況に応じながら球界や経済界の関係者と行った対談や座談会を収録したものである。
 球界再編問題では広岡達朗(元スワローズ、ライオンズ監督・マリーンズゼネラルマネージャー)と、オーナーたちの問題では坂井保之(元ライオンズ、ホークス球団代表)、江本孟紀(元ホークス、タイガース投手・元参議院議員)、井上猛(経営コンサルタント)と、球団経営の問題については樋口美雄(慶大教授)と、ジャイアンツの凋落については須藤豊(元オリオンズ、ジャイアンツ外野手・元ホエールズ監督)、西本聖(元ジャイアンツ、ドラゴンズ、ブルーウェーブ投手・元タイガースコーチ)と、村上ファンド阪神電鉄株買収に際してのプロ野球株上場問題については江本孟紀、木村剛(「フィナンシャルジャパン」編集長)と、楽天のTBS株買収に関しては水木楊(作家)、森永卓郎(経済アナリスト)と、選手の年俸問題では野村克也(元ホークス、スワローズ、タイガース監督・現ゴールデンイーグルス監督)と、今後の展望に関しては古田敦也(現スワローズ捕手兼監督・プロ野球選手会前会長)と、それぞれかなり本質的なことについて議論している。
 ここで著者が期待するのはジャイアンツ一辺倒であるプロ野球界のあり方を見直すことと、その中心にタイガースがなることである。なぜか著者はタイガースに多大な期待をかけている。おそらくは球界再編騒動の際に星野SDと野崎球団社長が1リーグへの縮小を阻止する動きの中心となったからだと思われる。ただ、この著者の過大な期待に対して、タイガースの体質をよく知る江本氏がユーモアを交えながらやんわりと否定しているのが興味深かった。ただ、現時点での観客動員力やファンの熱心さから考えると、タイガースが球界の軸になるべきだという考え方をもつのは自然な流れなのかもしれないが。
 プロ野球のチームはファンのものであるという観点からは決して外れていないので、全ての議論にちゃんと軸があると感じられた。だから、複雑にからみ合った様々な問題についても論点が錯綜していない。Jリーグを理想視し過ぎていたり前述のようにタイガースに不思議に期待していたりというあたりは疑問符がつきはするけれど、識者たちがそれを補正するような発言をすることにより、著者の意見だけにかたよらない公正な視点で構成されたものになっている。プロ野球ファンはもちろん、各球団の経営陣やコミッショナーに読んでもらいたい一冊である。

(2006年4月16日読了)


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