本書は著者があちこちで発表した依頼原稿をまとめたもの。何かの事件に対する時評もあれば、テーマがあらかじめ設定されたエッセイもある。書評や本の解説もある。いわばごった煮的なつくりの本なのだが、「自己」を内なる「他者」から見つめるという著者のスタンスは常に一定なので、統一感は損なわれていない。
著者の考え方を抽出すれば、自信満々で相手を説き伏せるよりも、相手と話していて自分と違う考え方があればどんどんそれを吸収し、自分なりに消化すべきだということになるだろう。それは実は自分というものの土台がしっかりしていないとそう簡単にはできるものではないことではないかと思う。
本書は著者の他の本と大きく内容が異なるわけではないのだが、依頼原稿という性質のため、不特定多数にもわかるように書かれているのが特徴で、本書から著者の思想に慣れていき、そして他のものを読むというのはいい方法かもしれない。そういう意味では「新書」むきの構成であるかもしれない。
(2006年5月4日読了)