作者久々の新刊である。いったいどれくらいかというと7年も間隔があいておったので何と今世紀初の新刊だ奇跡の刊行と帯に書いているではないかおおそうか鬼籍の観光か地獄八景か本書は。
短篇が5編。美少女が実はMI6の諜報員で学校全体で国際諜報戦が繰り広げられわやくちゃになる「ミッションスクール」と、美少女が恥ずかしいことをいってしまうとそれがでかい声になってそこら中の物を破壊する人をぶっ殺すわやくちゃになる「ポルターガイスト」と、美少女が美術部の物を友だちに勝手にやってしまったので総務部まで補充をもらいにいくとダンジョンを突破しなくてはならなくて美少女は何でも勝手にさわってこらさわったらいかんというのにというものまでさわってしかけ全体がわやくちゃになる「ステイショナリー・クエスト」と、美少女が狐から菌をうつされて正義の味方の中の正義の味方というような能力を身につけてしまうとそこら中から怪人怪獣怪虫怪僧次々と現れてわやくちゃになる「フォクシーガール」と、美少女に突如ほれられた男子生徒の学校がいきなりずぶずぶずぶと沈みはじめて逃げようとしたら美少女の姉やら年上の美人やら全裸の美女やらに次々とほれられてしまい逃げねばならんのにわやくちゃになる「スクーリング・インフェルノ」が収録されている。
最初の3編は「電撃hp」にとびとびに掲載されたもので、若年層の読者を意識したのかギャグの歯切れも文章のテンポもあまり調子がよくなく特にギャグは突飛なできごとが次々起こる割には相乗効果があがってこなくてまるで若手芸人が思いつくままギャグを盛り込んだ漫才をしているのに客は冷静にそれを見てしまうというような感じである。
残り2編は「SFマガジン」に掲載されたものと本書のために書き起こされたもので、制約がなければ作者はここまでやれるのだどうだみたかまいったかというくらいできがよい。特に文章のリズムとテンポが心地よく響いてくる。田中哲弥節とでもいうのかなんというのかとにかく作者独特の文章だ。田中哲弥はこうでなくてはいかん。文章による笑いという極めて難しい芸当をもののみごとにやってのけるのが作者なのだどうだみたかまいったか。
なにはともあれ田中哲弥の新刊が出た。もう「電撃」の読者層を意識しなくてもよいからどんどん気兼ねせずに量産して下さい。「大久保町」シリーズの続きは書きませんかそうか。
(2006年5月27日読了)