読書感想文


涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流著
角川スニーカー文庫
2003年6月10日第1刷
2006年5月10日第18刷
定価514円

 第8回スニーカー大賞〈大賞〉受賞作。
 高校に入学した俺、通称キョンは、奇矯な美少女と同級生になる。彼女の名は涼宮ハルヒ。彼女は平凡な日常や平凡な級友やその他もろもろの平凡なことすべてにうんざりしていた。俺がついうっかり自分で部活を立ち上げたらいいといってしまったものだから大変だ。ハルヒは「S・O・S団」なる同好会(?)を作り、文芸部の部室を乗っ取り、愛らしい先輩朝比奈みくるさんをマスコットとして無理矢理入部させ、パソコン部からコンピュータを強奪する。さらに文芸部員の長門有希、謎(?)の転校生古泉一樹を勧誘し、俺を含めた4人がハルヒに引っ張りまわされるはめになる。ところが、長門もみくるさんも古泉も実は偶然集められたのではなかった。彼らはそれぞれの理由でハルヒに引き寄せられてきたのだった。その真相を告げられた直後、俺は学級委員の朝倉涼子から呼び出される。彼女はなんと俺を殺すために呼び出したのだった。ごくごく平凡で当たり前に普通な俺をこれ以上あり得ないシチュエーションに巻き込んだ涼宮ハルヒとはいったい何者なのか……。
 新人離れした文章の面白さがある。とにかく例えや言い回しが絶妙にうまいのだ。主人公の涼宮ハルヒの個性が強烈なのは当然のこととして、ともすればマンガっぽくなってしまいそうな設定の脇役たちも、この細部にこだわった文章のおかげで不思議なリアリティを保っている。
 単なる学園ファンタジーではない。これは実はインナー・スペースを舞台とした本格SFなのではないか。奇矯な性格の美少女という設定に惑わされてはならない。そういう着ぐるみを身にまといつつ、実はディックやバラードのような世界を構築しようとしているのでは……と思わせてしまうところに本書の魅力はある。
 もっとも、脇役たちの相関関係、特に語り手であるキョンとハルヒの関係性がいまひとつ効果的に機能していないのが残念なところだ。シリーズ化されたためにそこらあたりは完結編で明確になるのかもしれないが。

(2006年6月15日読了)


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