大化改新の中心となったのは中大兄王子(天智天皇)と中臣鎌足(藤原鎌足)であると「日本書紀」にはある。しかし、著者はこのクーデターで誰が一番得をしたのか、その後、壬申の乱に至るまで大海人王子(天武天皇)の存在感が薄いのはなぜか、斉明天皇はなぜ異例の女帝による重祚を行ったのかなどの矛盾点を検証し、「日本書紀」の裏側に隠された真相を突き止めようと推理していく。
著者は、大化改新のクーデターで天皇位についた孝徳天皇こそ首謀者であり、その後の政権では実は中大兄王子は実験を握ったとはいえないということを検証していく。それどころか、中大兄王子は、この一連の流れの中で汚れ役を受け持っていると断じる。「日本書紀」の編纂を命じた人物、すなわち天武天皇が、近江朝から帝位を横取りし、そのことを正当化するためにダーク・イメージが中大兄王子に常につきまとうように創作していったというのである。
本書の推理は緻密で、説得力もある。ただ、論拠となる史料があまりに乏しいので、本書はよくできた仮説にとどまってしまっている。
史料を読み込むことにより、その史料の作成者の意図をくみとりながら再構築していくという姿勢を示すことにより、定説となっているものに対する疑義を申し立てることが、著者が本書で書きたかったことなのではないかと感じられた。そういう意味では、本書の示す多面的な視点にこそ、歴史というものに対峙する時に必要なものなのではないかと思わずにはいられないのである。
(2006年6月30日読了)