読書感想文


ロボット化する子どもたち 「学び」の認知科学
渡部信一著
大修館書店
2005年11月20日第1刷
定価1800円

 「学び」とはいったいどういうものであろうか。学校教育では欧米式の「教え込み」型の指導方が学制制定以来とられてきた。しかし、21世紀となった現在、この形の教育のほころびが見え始めている。著者はロボット開発の過程でこれと同じ「教え込み」型のプログラムが行き詰まったことを例にとり、ロボット自らが学習するシステムが作られていっていることを示す。そして、指示を待つマニュアル化された子どもたちに対してはロボット同様「教え込み」型の指導は有効ではないと説く。ならば今後の教育のあり方はどうあるべきか。著者は東アジアの母親たちが伝統的にとる「しみ込み」型教育を推賞する。環境を設定しておき、自ら気づき、学ぶ姿勢を形作ることによって子どもは成長するというのである。成長という営みを形成するのが難しい自閉症の子どもと長年関わってきた著者は、時間をかけて「しみ込み」型の指導をしたことによってかなり自閉のきつい子どもが様々な場面で自らコミュニケーション能力を伸ばしていった実例をあげて、「しみ込み」型教育の有効さを説くのである。
 本書で説かれる「教育」は、学校教育のみならず、家庭教育の場なども含んだ広義の「教育」である。時間をかけ、じっくりと取り組まなければ、最終的な効果がどこで現れてくるのかわからない。
 著者の「認知科学」の立場からいえば、確かにこれは正論である。ただ、この場合、教師と親とが長期間にわたって指導をしていかなければいけないという問題点がある。学校は現在の制度では小学校入学から高校卒業までに何度も途切れ、学校が変わると指導法も変わらざるを得ないという難点がある。むろん、上級の学校に進む時に、個別の生徒の綿密な引き継ぎを学校間で行うことはまずない。
 上級の学校に入学した際に保護者がバトンの渡し役をすることは可能だが、中学や高校のように教科ごとに教師が交代するというシステムをとっていると、さらに引き継ぎは難しくなる。
 大学教授である著者が研究する過程で行なえたことは、現在の法律では不可能に近いことなのである。著者はコンピュータやネットを利用したe−ラーニングにその可能性を見い出そうとしているが、これもまた未知数。
 現場の教師として、著者の理念は大いに理解できるし賛同できる部分も多い。が、現場にいるからこそ、集団に対して「しみ込み」型の指導をしていくことの大変さもわかる。教育の根本から変革していかなければ、著者の提唱する「学び」を実現していくのは難しいといわねばなるまい。
 参考になる部分も多々あったが、実戦ということになるとまだまだ壁は高いだろうと思わされる部分も多かった。教育という行為は結果が出るまで非常に時間のかかるものなのだということを、改めて感じさせてくれた1冊である。

(2006年7月9日読了)


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