読書感想文


円谷一 ウルトラQと”テレビ映画”の時代
白石雅彦著
双葉社
2006年7月20日第1刷
定価2800円

 円谷一……特撮の神様である円谷英二の長男であり、国産はつの連続特撮テレビ映画「ウルトラQ」の名ディレクターである。さらに、第一次怪獣ブームが去った後の円谷プロの再建を果たし、第二次怪獣ブームを生み出した経営者でもある。
 本書は、テレビドラマ草創期を知る証人たちの談話と、民放テレビ局開局当時のドラマ事情などを年代順に追うことにより、円谷一という人物の実像を探ろうとする試みである。
 一人の人物の生き方を追う場合、その生き方に時代背景というものが密接に関わってくることを理解しつつ描き出さねばならないのはいうまでもない。現在の尺度で当時の人々の生き方をはかることはしてはならないのだ。
 だから、著者は日本におけるテレビドラマの歴史を、円谷一の歩みとともに描き出す。そのことにより、一人の人間の評伝と、一つの時代の記録がみごとなまでに重なりあった貴重なドキュメントが完成したといえるだろう。
 映画人からバカにされながらも、テレビマンたちはプライドをもって新しいメディアの創造にすべてを賭けていた。「ウルトラQ」の企画はその延長線上にあったし、以後続く「ウルトラ」シリーズもまた一つの流れの中に位置付けることができるのである。
 若くしてこの世を去った稀代の人物、円谷一。その生涯はテレビ映画というジャンルの確立とともにあった。そのドラマそのものに草創期のパワーがなくなってしまっている現状を、円谷が生きていたらどのように動かしていっただろうか。
 マスメディア史に関心のある方は必読である。労作という言葉で片づけてしまってはいけない、大きな仕事の成果がここにある。

(2006年7月24日読了)


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