弘法大師空海が唐に着いてから、どのようにして密教の奥義を身につけたかを描いた長編小説。
空海の乗った船が最初に漂着した土地で出会った道士、杜知遠は、その観相術で彼がただならぬ人物であることを見抜く。空海はその書のみごとなことや漢文を作る力が優れていることなどを観察使の閻済美に認められ、そのために彼らがちゃんとした使節団であると承認されて長安におもむく。船旅の途中、長安に送られることになっていた3人の美しい妓女の内の1人が消えてしまう事件などもあったが、船は無事に長安に着いた。しかし、都では皇帝が危篤状態にあり、皇太子も病気で体が不自由になるという状態であった。そのような中で空海は皇太子の側近、王叔文と知己になり、さらにゾロアスター教やイスラム教の寺をも訪問し、見聞をひろめ、宗教というもののあり方についていろいろと考えさせられていく……。
主人公の空海は、ここでは強烈な個性を発揮する人物ではなく、どんなものも引き込まれてしまう魅力ある人物として描かれている。そして、本書では多彩な登場人物が虚実取り混ぜて登場し、空海の運命をひとつの方向に導いていく。
中国を舞台にした小説の第一人者である作者ならではの、長安とそこに関わる人々の描き方がみごとである。例えば、司馬遼太郎は空海の生きてきた風景を描写することによりその人物像を浮き上がらせた。夢枕獏は空海を超人的な能力の持ち主に設定し、伝奇的な事件を解決させることによってキャラクターを浮き立たせた。三田誠広は評伝的なスタンスで真正面から空海という存在を描こうとした。
作者は、空海をとりまく人々の言動と、それに対する空海の対応からその人間的な魅力を引き出そうとしているように思える。
下巻ではいよいよ空海が本格的に密教の奥義を伝授されることになる。どのような形で描かれるのか、早く読み切ってしまいたい。
(2006年8月9日読了)