読書感想文


天変地異の黙示録 人類文明が生きのびるためのメッセージ
小松左京著
日本文芸社 パンドラ新書
2006年6月25日第1刷
定価838円

 映画「日本沈没」の公開に合わせ、1970年代末に著者の書いた人類の文明や科学や未来について書かれた文章を再録し、第一部として新たに著者が語った言葉を文章化して現在の読者にもアピールできるようにしたものである。
 そのような企画ものにありがちな「お手軽」感がないのは、もともとの文章が当時のSFファンを対象に書かれたかなり密度の濃いものであるからだろう。逆に、新たにつけ加えられた現状分析の部分は口述筆記ということもあるのだろうが、内容的には著者ならではという深い分析が見られないように思われる。
 再録された文章は、「SFファンタジア」シリーズ(学習研究社・絶版)に掲載されたものが中心である。「終末感と未来のイメージ」は、世界の宗教に見られる終末思想の原型は何かを探り、もし終末が訪れるとすればどのような原因であるかが考察され、それを防ぐにはどうすればよいかが綴られる。「ユートピアの終焉」では、トマス・モアからジョージ・オーウェルを経てA・C・クラークにいたるユートピア文学の系譜とそれらが書かれた時代背景などが紹介され、理想的な社会とはなにかを考察する材料としている。「地球政治時代への提言」では「環境」と「科学」の歴史を俯瞰するという大技をくり出し、今後のグローバルな社会のあり方を提示する。
 30年近く前の文章であるにかかわらず、内容的に全く古びていないのは、著者の巨視的なスタンスというものが人類の抱えている問題の本質を的をそらさずについているからだろう。逆にいえば、この30年の間、人類そのものはたいして進歩も退歩もしていないということの証明でもある。
 企画ものではあるが、10年ほど前に再録されて以来埋もれていたものをこういう手に取りやすい形で再刊してもらえたのは、ありがたいことであると思う。1970年代に著者の果たしていた役割の大きさを改めて感じた次第だ。

(2006年8月17日読了)


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