読書感想文


空疎な小皇帝 「石原慎太郎」という問題
斎藤貴男著
ちくま文庫
2006年8月10日第1刷
定価760円

 石原慎太郎東京都知事は、就任以降幾多の問題発言を繰り返し、自分の意に染まぬ者にたいしては処分や放置などの方法をとって弾圧し、その結果石原都知事の考えを先回りして、都の職員などは知事の意向に反する者を過剰な対応であぶり出したり処罰したりしている。新聞には小さな枠でしかとりあげられないが、その断片的な報道だけでもこの人物がおよそ人権などということについて一顧だにしないということは私もわかっていた。
 本書はそのような断片的な報道の内容をよりくわしく記述したものである。ここに書かれていることがすべて事実であるとすれば、このような人物を選挙で知事に当選させている東京都民たちの人権意識というものを疑わずにはいられない。著者は都民が石原氏を支持するのは「閉息状況に陥り、英雄を求める」という心理が集団行動として現れているものだと指摘している。ただ、その根拠となる証言を集めることにはなぜか不熱心であり、感情的な反発がこの分析に反映されているというあたりが気にかかるところではある。
 私が本書を手にとったのは、石原慎太郎という人物の危険性を確認したかったからであるが、そういう意味では本書の内容は私の感じている危惧を確かなものにしてくれたといえるだろう。
 ところで、どうしてこのような人物が「英雄」としてとらえられているのだろうか。ふだんは思っていても口にできないおのれの差別的な感情を、権力者が代弁してくれるということで、支持者は溜飲を下げているのだろうか。本書に欠けているのはそういった支持者の視点である。もしそちらの取材もきっちりとなされているならば、より深い分析も可能だっただろうに。

(2006年8月20日読了)


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