著者は「中央公論」「東京人」などの編集長を歴任し、戦後の論壇をつぶさに見てきた生き証人である。本書は、著者の語る言葉を編集者がまとめたという形であるが、著者は自分で書くとあまり平易な文章にならないのでそういう形をとることにしたのだそうだ。
一高から東大を経て中央公論社に入社した経緯とその読書歴を語ったあと、戦後の思想の潮流を、学者や評論家のエピソードを交えながらたどっていく。丸山眞男と共産主義の流行から、山口昌男ら文化人類学者の台頭、そしてオピニオンリーダーとしての三島由紀夫から司馬遼太郎という文壇からのアプローチなど、それぞれの時代に即した代表的な論客たちの流れが貴重な証言とともに記録に残されていく。
特に、自分に思い入れのある書き手について熱く語っており、吉田満の不遇をなんとか見直させたいという思いが伝わってくる。
反面、語り下しという形態が災いしたか、著者の人格がくっきり見えてくるのが本書の難点というように感じられた。正直、著者はかなりプライドの高い人であるように思われ、特に若い頃の読書遍歴を語る部分などでは、自分が背伸びしていたことを恥じるどころかいかに秀才であったかを誇るような気持ちが随所に見られ、鼻持ちならないのだ。自分が見い出した書き手をほめる部分では、それに合わせて自らの慧眼を誇っているのが透けて見える。
生き証人が語る戦後雑誌ジャーナリズムという意味では本書は貴重な証言であると思われるが、もう少し客観的な記述であればあまり不快感を感じずにすんだだろうに。
私は戦後の論壇についていろいろと知りたくて本書を手にとったのだが、名物編集者の「自分史」ならば帯にそう書いておいてほしいものだ。ただ、戦時中の一高生や戦後の東大生がどのような本を読み、いかにして生意気になっていったかというような心理が手にとるようにわかるのは面白くはあったけれども。
(2006年9月9日読了)