ユネスコ認定の世界遺産の向こうを張って、関西が誇るあれやこれやを勝手に世界遺産に認定してしまおうという、朝日新聞大阪版夕刊の好評連載が1冊にまとまった。書き手は民族学博物館の元館長、建築と風俗史の研究者、落語家、都市研究者、講談師、ノンフィクションライター、エッセイストとあらゆる分野に造詣の深いメンバーである。
エキスポランドのジェットコースターダイダラザウルスのように時代を切り取る施設を皮切りに、値切りやボケとツッコミなどの風習、パルナスの歌やキダ・タローなどの音楽、祇園祭やお水送りなどの祭、たこ焼きやフナズシなどの食品、錦天満宮の鳥居や大阪中央郵便局などの建物と、そのジャンルは地域や時代を超えて多岐にわたる。いずれも著者たちが関西ならではと推すだけのことはある、ちょっとひねりをいれた穴場みたいな趣がある。
この連載が面白いのは、その面白かったらなんでもありという姿勢にある。伊丹空港におりようとする飛行機の姿の迫力をほめたかと思うと、徐福の墓を前に悠久の太古に思いを馳せる。探偵!ナイトスクープから関西人のパワーをすくいだし、カップヌードルに進取の気風を読み取る。この「なんでもあり」の飾らぬスタイルこそ、世界遺産にふさわしい。
しかし、関西といっても広いものである。北は福井県小浜から南は紀州串本の海、西は姫路モノレールから東は彦根の井伊神社まで。77のバラエティにとんだ関西世界遺産が読み手に「いっぺんおいで」と誘いかけてくる。
これはまさしく関西の宝だ。紹介されている関西世界遺産も、そして書き手も、こんな企画を考え出した新聞社も。この感想を書いている現在も連載はまだまだ継続中。これからどんな宝が発掘されるのか、続巻にも期待したい。
関西人も、そうでない人も、ともに懐の深い関西という地域を本書でよく味わってほしい。
(2006年9月18日読了)